医院にとって、待ち時間対策が重要な理由

医療機関の経営及び業務を改善するための第一歩は、「待ち時間対策」からと言っても過言では無いと思います。なぜならば、待ち時間は、単に患者サービスを向上する以上に、医院の経営と業務にも深く関連するからです。

以下本稿では、待ち時間が恒常的に長くなることによって引き起こされるリスクを挙げ、医院経営と業務に与えるインパクトを見ていきます。

  1. 患者数減少
  2. スタッフと医師のストレス
  3. コスト増
  4. 医療の質とサービスレベルの低下

1.患者数減少

 筆者らが、自院の患者満足度を調査したところ、患者の不満の第一位は待ち時間の長さでした(図1)。患者が不満を持つと、当然再度受診してくれる率は低くなり、再来患者数は低下します。また、不満を持つ医院を他人に好意的に薦めることもないため、新規患者数にも影響します(図2)。仮に毎日の平均患者数が1名減少するだけで、一年間では約170万円ほどの減収になります。待ち時間が2時間、3時間と長い医院は、一日に数名の不満患者が蓄積してくると仮定すると、実は年間数百万円もの収入を損失している可能性があります。

図1 待ち時間は、患者の不満ナンバー1

図2 待ち時間が長いと、4人に1人は不満に

待ち時間が長い医院では、いつも待合室が混み合うため、患者数が減少し始めてもなかなか気づきにくく、何らかの指標がないと、気づくのに1年以上かかってしまうこともあるでしょう。患者数減少の早期発見には、一日平均患者数を数値で把握し、当月と過去の同月とを比較してモニタリングすることが有用です。

2.スタッフと医師のストレス

 患者の来院が集中して、待ち時間が増えてくると、対応するスタッフと診察医師のストレスも相対的に増加します。待ち時間についての患者からの厳しいクレームは、特に受付や会計スタッフに対して向けられることが多く、スタッフのストレス増加、及びモチベーション低下の原因となります。待ち時間で最も苦痛を感じるのは、受付と会計のスタッフかもしれません。

蓄積したストレスは、スタッフの離職につながる可能性もあります。診察する医師のストレスも当然増えます。思い返すと、当院の待ち時間が最も長かった開院5年目に、診察医師が体調を崩すことが度々ありました。日々の待ち時間から来る医師へのストレスは、長年蓄積すると、医師の健康や寿命にも影響するのではないかと考えております。

3.コスト増

 待ち時間が増えると診療終了時間が長引き、結果的に残業時間が増え、残業時間分の人件費が増加します。スタッフ5名が毎日1時間残業をした場合、残業代は年間で2百万円程になります。また、駐車場料金や、待合室のアメニティにかかる費用なども余分にかかります。仮に職員が離職した場合、新たに人員を補充するには、採用コストが余分にかかります。人員を募集するための広告宣伝費や、紹介予定派遣会社を通した場合はさらに高額で、1スタッフあたり平均約100万円の経費がかかります。

4.サービスレベルの低下

 待ち時間が長くなると、医院側は「なるべく待たせてはいけない」というプレッシャーから、一人一人の患者にかけられる時間が短くなり、結果として「患者の話をしっかり聞いてあげられない」「患者の話を途中で遮る」「一方的に説明する」「説明を省く」「早口言葉」「患者の顔を見ないで、パソコンを見ながら話す」など、患者対応面での質の低下が懸念されます(図3)。また、受付会計の入力ミスや、おつりの間違い、保険証の返し忘れなどのミスが発生しやすくなります。平均診療報酬単価が低くなる可能性もあります。待ち時間が長いと、検査や処置で不急な診療はついつい次回にしてしまうからです。

図3 待ち時間が長いと受付への不満は4倍も悪化

筆者の医院は、開院後順調に患者が増加し、5年目には2時間や3時間の待ち時間が普通でした。今、思い返せば、待ち時間が長いのは「人気のある医院の勲章」という驕りがあり、また、待ち時間の問題の大きさに気づいていませんでした。その後、本稿の4つのマイナス作用が働き、患者数の下落を6年間止めることができませんでした。待ち時間問題を放置したことをとても反省しています。待ち時間問題をどのようにして解消していったのかは、また、別の稿で紹介させていただきます。

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