「働き方改革」シリーズ第1回 医療における「働き方改革」を整理する

現在、政府主導で議論が進んでいる「働き方改革」。今後「働き方改革」は、医師やコメディカルの働き方、クリニックの運営にどのような影響を及ぼすのでしょうか。本シリーズでは、「働き方改革」とは何なのか、また、今後医療機関における働き方改革はどのような方向性で進んでいくのか、そして、クリニックをはじめとする医療機関において今後検討すべきポイントについてシリーズでレポートします。

第1回目の本稿では、『医療における「働き方改革」を整理する』と題しまして、「働き方改革」がそもそもどこから来てどこに向かおうとしているのか。また、その流れの中で医療や医師における働き方改革は現在どのように議論されているのか、その概要をお伝えします。

「働き方改革」とは何か?

まずは、「働き方改革」がどこから来て何を目指しているのか、その概要を確認していきましょう。

2016年6月、政府は「少子高齢化の下での持続的成長」に立ち向かうための「究極の成長戦略」として「ニッポン一億総活躍プラン」を閣議決定し、その大枠が示されました。その中で示された具体的な目標は、「名目GDP600兆円」「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」というもので、就職の際に既卒者が冷遇される壁、再チャレンジを阻む壁、子育てや介護との両立という壁、定年退職・年齢の壁、男女の役割分担の壁等の障壁を取り除き、今社会に埋もれてしまっている潜在力を活かして少子高齢化という日本の構造的問題の克服を図ることを目的としています。

これらを達成するために放たれるのが、いわゆる「新しい3本の矢」です。
新しい3本の矢とは、「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」の3項目で、これら3本の矢を貫く横断的な課題として、「働き方改革」と「生産性の向上」が掲げられたのです。

「働き方改革」のこれまでの経緯

「ニッポン一億総活躍プラン」の閣議決定を受けて、2016年9月には「働き方改革実現会議」が発足。同会議は2017年3月に「働き方改革の実行計画」を決定します。この実行計画のポイントとなるのが、1)同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の待遇改善、2)長時間労働の是正、3)高齢者の就労促進の3点。これら3つのポイントは19の対応策にチャンクダウンされ、さらにそれぞれの対応策が複数の細かな施策に落とし込まれており、中には、17年度中に法律の施行や改正が完了しているものもあります。(働き方改革実行計画(2017年3月28日働き方改革実現会議決定)工程表(2017年3月28日働き方改革実現会議決定)

医療における「働き方改革」

上記のような流れを受けて、医療の領域において「働き方改革」はどのように議論されているのでしょうか。

2017年4月には「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」が報告書をまとめ、さらに、2017年8月に組織された「医師の働き方改革に関する検討会」は2018年2月に「医師の働き方改革に関する検討会 中間的な論点整理」と「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」を発表しています。
※本シリーズでは、次回以降上記の「中間的な論点整理」および「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」のポイントを整理してお届けする予定です。

一方、今後の検討方針については「労働制作審議会」(2017年6月)において大枠の方針が下記のように示されています。

図1 時間外労働の上限

図1 時間外労働の上限


出典: 働き方改革実行計画を踏まえた時間外労働の上限規制等について(2017年8月 厚生労働省)より抜粋、作成

上記の通り、医師の場合、医師法に定められた応召義務の存在もあり、上限規制を単純に適応することはできません。また、次稿で述べる通り、現状において医師の労働時間は長く、医師数や偏在を調整するにも時間がかかることから、上限規制を他業種と同様の条件で適応すると、医療の質や量の確保が難しくなることが指摘されています。また、医師の働き方改革においては、「医師の働き方改革」のみなならず、「需給・偏在対策」「医療・介護の連携の深化」「住民・患者の健康や医療に関する意識の向上」が必要との指摘もあり(「医師の働き方改革に関する検討会 中間的な論点整理」)、これらのことから、上記のように2年後を目処に規制の具体的なあり方についての枠組みを明確にした上で、具体的な規制案が検討されることになっています。

以上、本稿では、「働き方改革」の全体の流れとともに、医療施設、および医師における働き方改革の大まかな流れについてご紹介しました。次稿以降、医師の働き方の現状、また、医療および医師の働き方改革についての方向性と今後の見通しと具体的な取り組みについてレポートします。

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