音声入力は医療現場で活用できるか?

聴診器とパソコン

電子カルテの普及率が4割を超えた現在、医師が電子カルテを操作しながら診察する光景は見慣れたものになりました。一方で、電子カルテの導入によって、「患者さんの顔をあまり見られなくなる」「パソコンが苦手だと診療に集中できない」といった意見も相変わらず耳にします。そこで今回は、医療現場における音声入力の可能性について探ります。

電子カルテの導入メリットとデメリット

「電子カルテの導入メリットとデメリット」というテーマは、散々語り尽くされた感のある議題です。メリットとしてあげられるのは、電子化されることによる倉庫スペースの削減や素早いカルテ出し、検索性などでしょう。一方のデメリットとしては、「パソコン操作に気を取られて患者さんに向き合う時間が減る」といった操作性の問題がよく挙げられます。

とくにパソコンに苦手意識のある医師にとっては、電子カルテの操作は大きな悩みの種です。「患者さんの顔をあまり見られなくなる」「パソコンが苦手で診療に集中できない」「患者さんが多いと入力が追いつかない」といった問題は、診療の妨げになる重大なリスクといえるでしょう。

一方で、電子カルテのメーカーもこういった課題を認識し、徐々に使い勝手の改善を行っています。実は電子カルテの多くの機能は、パソコンの苦手な人向けに作られているのです。そのため、電子カルテの導入当初こそ入力に戸惑われていた医師も、しばらく使っていると慣れてくる方が多くいらっしゃいます。「電子カルテを導入するか迷っている」、そんな質問をいただいたとき、「最初のうちは戸惑うかもしれませんが、電子カルテはパソコンの苦手な人向けに様々な支援ツールを搭載しているので、3ヶ月もすれば慣れますよ」と私はアドバイスしてきました。

近年ではさらに、タッチペンを使って手書きで書ける電子カルテもあります。手書きに強いこだわりのある先生も多くいらっしゃいますので、電子カルテメーカーも様々なニーズに応えられるよう、とくにパソコンへのインターフェース・入力方法については日進月歩の改善を続けています。そういった流れの中で最近注目されているのが音声入力です。音声入力は、放射線部門では一般的なシステムで、音声をテキストデータに変換するシステムです。

音声入力の活用シーン

音声入力の仕組みは、iPhoneやiPadなどのスマートデバイスにすでに搭載されており、最近はやりのAIスピーカーや車のナビゲーションシステムも音声入力で操作を行います。

音声入力がもっとも力を発揮するのは、一人でマイクに話しかけるシーンです。医療の現場で考えると、①在宅医療の移動時間にカルテを書く、②カルテの内容を見ながらサマリーを作成する、③紹介状(診療情報提供書)など医療文書を作成する、④スタッフステーションで看護記録を作成する、といったシーンが考えられます。

音声入力というと、認識ミスが発生するのではないかという疑問も聞かれますが、最近は認識精度がどんどん上がっており、医療辞書を搭載した音声入力ソフトでは、これまで難しいといわれてきた医療用語の変換も可能にしています。驚くほど高い精度で変換ができるようになっているため、100%の認識は難しくとも、一人で書類を作るシーンなどでは一気に音声で入力し、後から修正することで大幅な効率化が実現できます。

在宅医療の現場での活用

とくに在宅医療の現場では、外来よりも入力の環境ははるかに悪く、落ち着いてパソコンに向かうことができません。患者宅に出向いて診察を行ったあと、移動の合間に車内でカルテの記載を行ったり、診療所に戻ってからカルテを書いている姿をよく見かけます。また、特別養護老人ホームや高齢者集合住宅など、一度に多くの患者を診察するケースでは、診察と診察の合間が十分にとれないため、「各部屋を回りながら一度に何十人もの患者を診ていると、カルテの記載が追いつかない」という悲鳴をよく聞ききます。

忙しい医師などは、部屋を出て忘れないうちにカルテを記載しようと、壁を机がわりにしてカルテを書く光景さえ見られることがあります。ノートパソコンを広げ、悠長に電子カルテを入力するようなことができないというのです。

しかし、音声入力を活用すれば、歩きながら、「BT120/60、異常なし、体温37.6度、微熱あり、前回と比べて褥瘡のレベルは悪化」といった診察内容を瞬時に、テキストデータとして変換して記載できます。移動の合間に歩きながらカルテが書けるようになるので、見た目もスマートだし、医師のカルテ記載の負担も大幅に減少するのではないでしょうか。

音声入力が苦手なこと

一方、音声入力は医師と患者のやり取りを同時に入力することが苦手なようです。声の聞き分けがうまくいかず、どちらが医師の言葉で、どちらが患者の言葉か区別できず、会話の文章が混在してしまうことが多く見られます。しかしながら、将来的にはAIなどを活用して、声の聞き分けができるようになると、医師、患者のそれぞれの声を区別して入力できる可能性があります。実際に、会議などの議事録で使用する取り組みも始まっています。

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