PHRの普及を目指し、厚労省に検討会が設置

現在、世界的に「PHR(パーソナル・ヘルスケア・レコード)」普及の兆しが見えてきており、その流れを受けて9月に厚労省も検討会を立ち上げました。PHRとは、個人がWebやアプリなどを使って、健診結果や服薬歴等の健康等情報を電子記録として管理する仕組みです。果たして、PHRは普及するのでしょうか。

なぜ、いまPHRなのか

PHRが従来の医療システムと異なるのは、患者の医療情報を医療機関が保有し共有するのではなく、患者自らが保有するという考え方だからです。

みなさんご存知のように、我が国は急速に少子高齢化と人口減少が進んでおり、人生100年時代といわれるように健康寿命の延伸に向けた取り組みが重要となっています。そのための仕組みとして長らく「地域包括ケアシステム」の構築に取り組んできました。

地域包括ケアシステムとは、地域の医療機関、介護施設、行政などが連携して、患者の情報共有を図り、地域全体で患者をサポートする仕組みのことで、そのシステムが構築できれば効率的に医療、介護、生活に関するサポートが行えるという考え方です。

これらの体制を実現するためには、地域内での情報共有ネットワークなどインフラ整備が必要であり、「地域連携ネットワーク」の構築のために多額の補助金が投下されてきました。

しかしながら現状では、同ネットワークが全国隅々まで張り巡らされているわけではなく、普及にかなり苦戦しているといえます。その背景には、地域の協力体制、電子カルテの標準化、システム間連携などの問題が山積みであり、それらがネットワークを推進するうえでの高い障壁になってきたのです。

このような背景から、医療機関同士の情報共有の仕組みに変わって、PHRという「患者自らが自身の健康情報を管理し共有する方法」を考えることになったのではないでしょうか。

紙の手帳からアプリへの流れ

「患者自らが自身の健康情報を管理し共有する」というと、これまでも本邦では「紙の手帳」が使われてきました。たとえば、処方については「お薬手帳」、血圧については「血圧手帳」、生活習慣病については「生活習慣病手帳」といった具合です。それらを製薬メーカーが作成して患者に配布し、患者が手書きで記録したものが、医師とのコミュニケーションでも使われてきた経緯があります。

これらの手帳がさらに進化したものが電子お薬手帳やヘルスケア関連のアプリとなります。これらは、スマホなどの携帯端末アプリの普及を機に、様々なメーカーが開発してきたものです。しかし残念ながら、これらの取り組みもなかなか現場の運用に馴染まず、いまいち普及していないのが現状です。

厚労省、PHR推進に関する検討会を設置

2019年9月、厚生労働省によって「国民の健康づくりに向けたPHRの推進に関する検討会」が開催され、これまでの経緯と今後の進め方が検討されました。

PHRについて「個人の健康診断結果や服薬履歴等の健康等情報を、電子記録として、本人や家族が正確に把握するための仕組み」と定義し、それが普及することで、「本人の日常生活習慣の改善等の行動変容や健康増進につながる」「健診結果等のデータを簡単に医療従事者に提供できることにより、医療従事者との円滑なコミュニケーションが可能となる」といった効果を想定しています。

また、PHRの活用に関する論点として、①PHRとして提供する情報(情報の種別や提供範囲)と②情報提供・閲覧の在り方を挙げています。

我が国では、2020 年度から特定健診、乳幼児健診等の情報を、2021年度からは薬剤情報について「マイナポータル」により提供することとされており、これらの取り組みを通じて、予防・健康づくりの推進等が期待されています。

PHRの普及のためには

今回設置されたPHRの推進に関する検討会では、アプリの開発要件として「どんな情報を収集」し、「どのように閲覧・情報共有」していくかの基準なり、方向性を定められていくことが予想されます。これらが決まれば、足並みがそろい情報共有の方向性が定まるので、各メーカーはアプリの開発がしやすくなるでしょう。しかし、それが普及するかどうかは現場次第であるように感じます。

これまでの医療ICTの普及プロセスを見ると、⓵患者が健康情報を携帯することのメリットを強く感じる、②政府からの強制力、③医療機関にとっての大きなメリット、が必要になると感じます。

医療情報化支援基金の設立

一方、令和元年の予算では「医療情報化支援基金」に300億円の予算が計上されています。こちらは、保険証のオンライン資格認証と標準的電子カルテの普及を進めるための施策で、「いつ補助金が出るのか」と多くの医療機関が動向に注目しています。しかし、医療情報化とPHRの流れは対で進められていく必要があると考えます。PHRの標準化、EMRの標準化、そして互いに連携できる仕組みがあって、初めて情報共有が進むのではないでしょうか。

果たして、電子カルテの標準化が進み、情報共有の仕組みが構築されるのか、患者が保有する健康情報の標準化が進み、患者レベルでの情報共有の仕組みが進むのか。いずれにしても「情報の標準化」が焦点であることには変わりありません。患者にとっての利便性と医療機関のメリットが両立するような情報の標準化はどのようなものか、どういった形で普及が進むのかは、しっかりと注視していく必要があると思われます。

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