COVID-19がもたらした急激な環境変化

2020年初頭から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大は、我々の生活、そして「医療」に大きな影響を与えています。医院経営にとっては急激な環境変化が起こっており、今後も予断を許しません。今回は、この急激な環境変化、とりわけ患者アクセスの多様化と、効率化・生産性向上について考えてみます。

患者アクセスの多様化

 COVID-19の感染拡大によって、医療環境にもたらされた大きな変化の一つが、オンライン診療・服薬指導に代表される「患者アクセスの多様化」です。

 オンライン服薬指導については、本来は2020年9月に予定されていたものが、COVID-19対策の一環として、前倒しで2020年4月から実施可能となりました。また、オンライン診療については、同様に初診からのオンライン診療が時限的に認められています。

 オンライン診療の利用範囲は、現在暫定的に拡大されていますが、今後の注目点はこれが恒常的に認められるかどうかです。政府の方針としては容認する方向性が打ち出されており、2022年の診療報酬改定では大幅な規制緩和が予想されます。

 患者様の利便性を考慮すると、この流れは医療機関、とくに「かかりつけ医」機能を担う診療所にとって避けて通れない流れです。「人は易きに流れる」という言葉があるように、一度オンライン診療の利便性を享受した患者様は、引き続きお使いになりたいと思われるでしょう。

 今後オンライン診療も「当たり前のもの」になっていくことが予想され、オンライン診療を通常の診療とどう組み合わせて新たな価値を創造していくかが重要になってきます。

効率化・生産性向上

 もう一つの変化は、テクノロジーの急速な進歩に伴う「効率化・生産性向上」の取り組みです。COVID-19がもたらした変化について、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは「(コロナ禍で)2年分のデジタル変革が2カ月で起きた」と述べましたが、社会全体でまさに大きな変化が起きています。これまで遅々として進まなかった医療のIT化についても、オンライン診療に見られるように急激に進むことが予想されます。

 たとえば、現在話題になっている「AI・RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」は、人手不足解消に大きな期待を寄せられています。人手不足の問題を慢性的に抱える医療現場にとっては、積極的に取り入れる必要があるでしょう。

患者様とのエンゲージメントをどう構築するか

 コロナ禍で患者様の「受診控え」が医療機関に大きな影響をもたらしています。これほどまでに「患者様が来ない」状況は、医療機関にとって過去に経験したことがない出来事でしょう。COVID-19は、医療機関と患者様の関係性に大きな警鐘を鳴らしています。従来のように、「立地さえよければ患者様が自然にやってくる時代」は終わり、「混んでいるクリニックはさらに人気がでる」という、当たり前の道理さえも覆そうとしているのです。

 感染症対策をしながらの経済活動は大変難しく、これまでの常識にとらわれない工夫や対策が必要です。その問題解決のヒントが、「エンゲージメント」という言葉にあると思うのです。エンゲージメントはビジネス分野の概念で、顧客との強固な信頼関係を指す言葉となります。では、医療におけるエンゲージメントとは何でしょうか?それは、患者様の状態をもっとも良く把握し、患者様からも信頼してかかっていただける「かかりつけ医」だと考えます。

「かかりつけ医制度」は、かかりつけ医がゲートキーパーとして専門の医療機関へ振り分ける社会構造として政府が推進していますが、奇しくもCOVID-19が後押ししているのです。患者様にとって、かかりつけ医はどういう役割を担うべきか。「患者様と正しい信頼関係」を築いた医療機関のみが生き残れる、そんな時代が訪れるように思うのです。


 COVID-19で変化した社会は「New Normal(新しい常態)」と評されますが、新常態は、決してゲーム自体が変わるわけではないと考えます。これまでの歩みの延長線上にありつづけながら、ただしその歩むスピードが劇的に変わろうとしているのです。

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