キャッシュレス決済は我が国にも普及するか?

2019年10月に予定されている消費税の引上げですが、政府は景気後退を懸念して「キャッシュレス・消費者還元事業」を行うとしています。この施策は、前回の消費税引上げ時に起こったような景気後退を避けたいという思惑と、世界的に進むキャッシュレス化の波をキャッチアップしたいという思惑があります。この施策により、わが国にも「キャッシュレス決済」が一気に普及するのでしょうか。

キャッシュレス・消費者還元事業

2019年10月の消費税引き上げ(8%から10%へ)に際して、政府は景気悪化を懸念して、「キャッシュレス・消費者還元事業」(ポイント還元事業)を打ち出しました。同事業は、クレジットカードなどの「キャッシュレス決済」を利用した消費者に対し、購入額の5%あるいは2%分をポイントやキャッシュバックで還元するものです。

事業者がキャッシュレスに対応することによる「生産性向上」や消費者の「利便性向上」の観点から実施されるもので、施行期間は消費税率引上げ後の10月1日~東京オリンピック前の2020年6月末までの9か月間となっています。ポイント還元となる対象は、クレジットカードやデビットカード、電子マネー(交通系カードなど)、QRコード、モバイル決済を利用した消費者となります。

この事業の対象は中小・小規模事業所と限定されており、たとえばサービス業では「資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人事業主」で、事前に加盟店登録が必要になります。残念ながら、消費税のかからない保険医療機関、保険薬局、介護サービス事業者などは、その対象から除外されています。

経済産業省の調査によると、2019年5月中旬から加盟店の登録受付を開始しており、8月21日時点で「事務局への登録申請数」は約43万件、「事務局の審査を通過した加盟店数」は約20万件となっています。

世界で進むキャッシュレス

以下は、経済産業省がまとめた『キャッシュレスの現状と今後の取組』から抜粋したデータにもとづく表です。

表 各国のキャッシュレス決済の普及率
国名
普及率
韓国 89.1%
中国 60.0%
カナダ 55.4%
イギリス 54.9%
オーストラリア 51.0%
アメリカ 45.0%
日本 18.4%

 

ご覧のように、お隣の韓国では89.1%と突出して高く、続いて中国、カナダ、イギリス、アメリカなど40%~60%台と高い水準であるのに対し、日本は約18.4%にとどまっているとしています。この状況を受けて、政府は「今後10年間でキャッシュレス比率を倍増し、4割程度にすることを目指す」としています。

キャッシュレス決済のメリット

ポイント還元事業では最大5%の還元とオトク感があるため、消費者によるキャッシュレス決済への注目・普及は高まると思われ、それに伴って事業者側もキャッシュレスの導入機運が高まっています。保険医療機関である診療所はポイント還元事業の対象外ではありますが、もし今後社会全体のキャッシュレス化が進むと、診療所への影響も避けられなくなるかもしれません。では、キャッシュレス決済にはどんなメリットがあるのか。あらためて確認しておきましょう。

まず、消費者(患者)にとっては、現金を持ち歩かなくてよく、突然の出費でも銀行で現金を下ろす手間が不要です。とくに診療所の受診は思わぬ高額になることがありますから、患者からするとキャッシュレス決済で支払いができると便利でしょう。また、一般的な商品購入では決済ごとにポイントが付くことも多く、現金での支払いに比べてお得感があります※。そのほか、利用明細も散逸することがなく、利用履歴を管理しやすいこともユーザーからするとメリットでしょう。

※保険診療の支払いでもしキャッシュレス決済が使われた場合、ポイントが割引診療にあたるのではないかと厚労省で何度も問題になっています。

一方、事業者(保険医療機関)にとっては、患者さんが手持ちの現金を切らせて未収金になってしまうリスクが回避できるというメリットがあります。回収が翌月であるため診療報酬の振込より支払いサイトが短いことになり、高額な検査や自費医療などとも相性が良いと考えられます。また、オリンピックに向けて増加が見込まれている訪日外国人の対応としても有効です。さらに、キャッシュレスは現金を触らなくて良いので、釣銭の渡し間違いのトラブルも回避できます。

キャッシュレスが進まない背景

前述の『キャッシュレスの現状と今後の取組』では、日本でキャッシュレス支払いが普及しにくい背景として、以下のような要因があげられています。

  • 治安の良さや偽札の少なさ等の社会情勢
  • 「使い過ぎ」等への不安感
  • 店舗における端末負担コスト
  • ネットワーク接続料、加盟店手数料等のコスト構造の問題

実際、診療所の院長などにお聞きすると、「3%台の加盟店手数料がもう少し下がれば導入したい」と話されます。

ただし、手数料については少し誤解があるように感じますので、少し例を挙げて考えてみます。たとえば、医療機関にとって「1000円(100点)」の医業収益に対して、健康保険で7割、自己負担割合が3割として計算しますと、手数料は自己負担分のみにかかるので300円の3%となり、手数料は9円となります。これは医業収益に対して0.9%であることが分かるでしょう。こう考えると、手数料が大きな負担になるという考えが少し和らぐように感じます。現在、政府の施策に合わせてキャッシュレス事業者は様々なキャンペーンを展開しており、「キャッシュレス導入」をいま一度考える機会ではないかと感じます。

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