改めて、診療所経営の話をしよう(3)-患者の囲い込み・リピート率をあげる

 長引くコロナ禍の影響から、患者の受診が減っているクリニックが多いと聞きます。現在、都市圏には2回目となる緊急事態宣言が発令されており、再び受診控えの様相が出てきています。また、感染症対策でマスクの常時着用、手指消毒、3密を避ける行動などが一般化し、その結果、インフルエンザやかぜ症候群などの季節系疾患が劇的に減っています。このような「患者減少時代」に我々はどのような行動を起こせばよいのでしょうか。

患者数の変遷

スマイル眼科クリニックは20年前に横浜市青葉区に開院しました。この20年間の売上の推移をみると、最初の5年間は右肩上がりで、年々売上は増加しました。しかしながら、5年目を超えたあたりから、地域に競合クリニックも増えてきて、競争が激化。その影響もあり、徐々に売上が下がっていきました。また、待合室の混雑も患者を減らしてしまう原因になっていたのでしょう。そこで、10年目にメディ・ウェブというシステム会社を立ち上げ、予約システム/順番取りシステムを開発し、当院に導入しました。システムを活用して、待ち時間の短縮に取り組むことで、患者の利便性が高まり、売上は再上昇していきました。

このコロナ禍では、完全予約制に変更し、患者に安心な受診環境を提供することで、1割程度の落ち込みでとどまっています。

再受診率

医院の患者数は、新規患者と再来患者の合計です。この関係は水の貯蔵タンクのように考えると分かりやすいでしょう。毎月、新規患者が一定程度来ることは、蛇口をひねり水が溜まる様子をイメージしてください。その水は、毎年大きな貯蔵タンクに溜まっていきます。このタンクに溜まった水は毎月、再来患者として受診されることになります。ここには循環が生まれています。この貯蔵タンクは残念ながら、穴が空いています。必ず漏れ出しているのです。その理由は、他院へ移ってしまったり、転居されたり、完全に治ったりと様々です。この穴を完全にふさぐことはできません。

いまコロナ禍では、新規患者の蛇口が過去のように開いていません。蛇口が締まっている状態です。このままでは毎月の患者数は当然減っていきます。そこで、再来患者からの循環をどう起こすか考える必要があるのです。毎月、一定の患者数を確保するためには、患者のリピート率が大切な指標となるのです。

医院安定のカギは患者リピート

過去の売上を分析していく中で、「再受診率」が重要であることに気づきました。開業当初は新規患者の比率が多いのですが、開業して年次が経過していくにつれて、新規患者の比率は当然下がっていきます。患者が右肩上がりの時は、おそらく新規患者をどう増やすかという議論ばかりして来たのではないかと思います。新規患者を増やすために、広告やホームページを見直すなど、コストをかけて、患者を増やしてきたのだと思います。しかし、現在のようになかなか新しい患者に来てもらうことが難しくなった時は、既存の患者に目を向ける時ではないかと考えるのです。

再来患者を増やすには?

さて、再来患者はどのように増やせばよいのでしょうか。マーケティングの定説では新規顧客の獲得コストに比べ、顧客をリピートさせるコストは10分の1で済むと言われています。これは言い換えれば、広告やホームページの見直しのようなコストのかかる戦略ではなく、コストをかけずに工夫する必要があるとも言えます。
当院では、再来患者を増やすために、以下の6点を実践しています。

① 次回再受診の必要性と目安を明確に伝える
次回、受診が必要な患者を確実に再受診していただくためには、医師から「なぜ、もう一度受診が必要なのか」をしっかり伝える必要があります。また、患者が行動に移せるように目安となる日時を何らかの形でお伝えしなければなりません。紙にメモを書くのか、目安の日時を印刷してお渡ししても良いでしょう。

② 次回の予約を入れる
患者が次回も受診を確実にさせるためには、次回の予約を取るのが最も有効です。予約とは、患者とクリニックとの約束ですから、予約することで「再び受診しよう」とする行動力が強まるのです。

③ 不満を減らす/不安を減らす
患者のクリニックに対する不満は、待ち時間や医師、看護師、受付スタッフの対応(説明)などです。これら不満は、患者の来院の意思を弱めてしまいます。不満を解消できなければ、目安も予約も有効に作用しないのです。
また、不安を減らすことも大切です。患者のクリニックに対する不安は、コロナ禍の今は感染症の恐怖であり、慢性的に起きている待合室の混雑でしょう。感染対策をしっかり行い、予約システムなどで待合室の混雑を回避するなどをして、患者が安心して受診できる環境を作り出す必要があります。

④ 利便性を増やす
患者の利便性を高めることも、再来患者を増やすことに効果的です。診療時間を明確にお伝えするのはもちろん、比較的すいている曜日をお伝えするのも良いでしょう。予約が取れることも患者の利便性が向上します。コロナ禍で予約の有無がクリニックの選択に大きく影響しています。安心して受診したい患者にとって、できるだけクリニックでの滞在時間を減らしたい思いがあるため、予約が取れるかどうかは大問題となっているのです。

⑤ 継続受診する慢性疾患を重視
再度来院する必要がある患者は、「慢性疾患」の患者です。次回受診が必要がない急性疾患の患者にいくら再受診を促しても、かえって悪い評判が立つだけです。慢性疾患の患者は診療科によって異なると思います。例えば、眼科であれば緑内障があります。緑内障の患者は定期的な検査、治療が必要になります。一方、白内障は慢性疾患ではありますが、いまや手術で治る病気となりましたので、定期的な受診にはつながりません。
また、スマホの見過ぎなどが問題で子供の近視が問題になっていますが、子供の近視も定期的に検査、治療が必要となります。このような慢性疾患の患者を増やすためにはホームページなどでのアナウンスや定期的なお知らせが必要となります。

⑥ 関係性づくり
患者が再び来院するかどうかは、患者とクリニックとの関係性にかかっています。関係性が高ければ高いほど、再受診の確率は高まっていきます。関係性を高めるためには、定期的にクリニックからメッセージを送れるようにする必要があります。メッセージは、医師の変更、診療時間の変更、予防接種、新しい医療機器など、クリニックから発信することはたくさんあるでしょう。クリニックから定期的に情報を発信するためには、LINEなどSNSの活用が有効です。プッシュ的に利用できるメディアを活用すると良いでしょう。

(次回に続く)

 

 

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