診療所の「New Normal」

新型コロナウイルス感染症は、診療所に大きな影響をもたらしました。日本医師会によるアンケート調査では、患者様による電話・オンライン診療や長期処方への要望、COVID-19感染疑いの方の診療、スタッフの勤務体制、風評被害、診療報酬の減少といった影響が報告されています。感染者数もまだ予断を許さない状況のなか、診療所経営にも変化が求められています。

新型コロナウイルス感染症の診療報酬への影響

 今般の新型コロナウイルス感染拡大の影響から、診療所の厳しい経営状況が報告されています。日本医師会が実施した『新型コロナウイルス対応下での医業経営状況等アンケート調査(3月〜4月分)』によると、診療所の入院外(外来)総点数は、3月の前年同月比で10.2%減、4月の前年同月比で17.0%減と大幅な減収が報告されました。

表1 診療所の2020年3〜4月入院外総点数
 
回答数
2019年3月
2020年3月
前年比
2019年4月
2020年4月
前年比
有床診療所 47 59,872,433 55,269,442 -7.7% 58,395,992 49,766,102 -14.8%
無床診療所 452 460,496,671 412,278,804 -10.5% 442,000,593 365,657,324 -17.3%
診療所 499 520,369,104 613,221 -10.2% 500,396,585 415,423,426 -17.0%

出典:新型コロナウイルス感染症対応下での医業経営状況等アンケート調査(2020年3~4月分)(日本医師会)

診療科別では、3月の前年同月比で「耳鼻咽喉科」が25.3%減、「小児科」が24.5%減と大きく減収し、4月には前年同月比で「耳鼻咽喉科」が36.6%減、「小児科」が39.2%減と影響が拡大しています。

表2 2020年3〜4月の診療科別入院外点数/無床
 
回答数
2019年3月
2020年3月
前年比
2019年4月
2020年4月
前年比
内科 257 265,416,632 243,596,659 -8.2% 263,460,889 228,050,537 -13.4%
外科 15 10,212,217 9,238,086 -9.5% 10,153,674 8,085,988 -20.4%
整形外科 23 20,397,277 18,542,337 -9.1% 20,592,145 15,981,123 -22.4%
眼科 18 19,692,663 18,601,675 -5.5% 17,832,226 15,762,367 -11.6%
耳鼻咽喉科 37 44,993,479 33,609,002 -25.3% 34,062,867 21,587,516 -36.6%
小児科 58 40,257,245 30,409,227 -24.5% 36,134,643 21,984,689 -39.2%
皮膚科 11 9,387,126 9,073,643 -3.3% 8,920,422 7,050,836 -21.0%

出典:新型コロナウイルス感染症対応下での医業経営状況等アンケート調査(2020年3~4月分)(日本医師会)

「外来患者数の減少」と「平均単価の低下」がダブルで影響

 前年より収入減になった原因は様々あると思いますが、影響が大きかった耳鼻咽喉科や小児科は、「子供が多い」という特徴が大きく作用していそうです。新型コロナウイルスの影響を受けて、保育園や幼稚園、学校が休校になったこと、それに加えてマスクや手指洗浄の徹底により、子供間での季節性疾患の感染が抑えられたことが大きいと考えます。

 また、全診療科に共通していえることは、

  1. 外出自粛の影響で「受診控え」が進んだ
  2. マスク・手洗い、距離を取ることの徹底により「季節性疾患の流行」が抑えられた
  3. 不要不急の「検査、手術の減少」などで、単価が下がった
  4. 「長期処方」を希望する患者様が多く、受診頻度が減少した
  5. 「電話・オンライン診療」を希望する患者様が増え、外来受診頻度が減少した

などが挙げられます。コロナ禍で、診療所経営は「外来患者数の減少」と「平均単価の低下」というダブルの影響を受けているのです。

緊急事態宣言の完全解除を受けて

 5月25日、緊急事態宣言が全国で解除されました。これにより外出自粛も解除され、街には少しずつ人が戻りつつあります。しかしながら、診療所にはそこまで患者様が戻ってきていないのが実情です。待ちに待った外出ですが、診療所を受診するという行動にダイレクトにつながっているわけではありません。診療所でのウイルス対策や安全性についてホームページで告知しても、すぐには患者様が戻って来ていないのが実情です。

 なぜ、このようなことが起きているのか。それは、新しい生活様式を忠実に守る我が国の国民性が大きく影響していると感じます。

New Normalへ

 緊急事態宣言解除後の生活について、政府は「新しい生活様式」を打ち出しました。この言葉は、もともと経済学の分野で2003年に提唱された「New Normal」という考え方に影響を受けています。金融危機や今回のコロナ禍といった大きなインパクトが社会に与えられた場合、危機の渦中や危機が去ったあとでさえ元の状態には戻らず、状況に適応した新たな常識や行動が生まれるという考え方です。ウィズコロナの時代は、従来の生活スタイルとは異なった「新しい生活スタイル」へのパラダイムシフトが起きると予想されています。

 外出自粛が緩和されたいまでも、国民は常にウイルス感染を恐れ、第二波に備える生活をしています。たとえば、マスクをして外出する、密な場所を避ける、リモートワークで職場への出勤頻度を減らすなど、コロナ前では考えられないライフスタイルが当り前になりつつあります。日本人の優れた「環境適応能力」が新しい社会を生み出そうとしているのではないでしょうか。

診療所におけるNew Normalとは?

 コロナ禍で変わってしまった生活スタイルを考えると、従来の診療所経営では難しい時代を迎えているように感じます。診療所においても、New Normalに合わせた以下のような経営が求められているのではないでしょうか。

  • 「3密対策」を徹底し、安全な診療環境を作る
  • 外来、在宅、オンラインなど「患者アクセス」の選択肢を増やす
  • 診療所での患者様の滞在時間を減らす(ショートステイ)
  • 患者様への説明、アドヒアランスを高める
  • 労働生産性を向上させる(コストダウン、ICTの利活用)

 これらの行動は、超高齢社会の中で政府が進めてきた政策に合致します。それは「働き方改革」に向けた「ICTを活用した生産性向上」といった政策です。コロナ禍が終わっても継続的に取り組むべき内容ですので、診療所でも積極的に進めていただければと思います。

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