改めて、診療所経営の話をしよう(6)- 開業医の共通の悩みである「教育研修」

 

スタッフは何でモチベーションを失うのか?

私は当院のスタッフに「モチベーション」について聞いてみたところ、スタッフのモチベーションを下げる原因は、入社年次(ステージ)によって異なることが分かったのです。
入社時は、勤務条件(給与・待遇)や環境(雰囲気)などが気になりますが、入社時にしっかり説明しておけば特にモチベーション低下の原因とはならないようです。つまり、給与など金銭面についてはモチベーションを下げる大きな要因とはならないということがわかりました。

人間関係と能力のギャップ

モチベーションは、入職から1年くらい経つと、「人間関係」が重要になってきます。また、自分の能力と期待される「能力のギャップ」の開きが大きいと、それがストレスになり、モチベーションの低下の原因となります。これこそが短期間で辞めてしまう原因となっているのです。
かつて、当院でも短期間でやめてしまう人が続出する時期がありました。その理由をヒアリングしたところ、あまりにもみんなが忙しくて、新しいスタッフに教えてあげる時間がなかったからだというのです。新人は周りが忙しくしている中で、何もできずにぼっと立っているだけ、自分は役に立たずに、周りは疲弊している。教育研修もフォローもないため、多くの人が辞めていったのです。それが分かってからは、教育研修制度やマニュアルの充実、定期的なフォローを実施するようになり、少しずつ定着していったことになります。

成長欲求、評価、承認、そして不安

そして、1年~3年では「もっと成長したい」という成長欲求がモチベーションのエンジンとなって行きます。この欲求に対して、適切な働きかけをすれば欲求は満たされますが、いつまでたっても同じ仕事であったり、毎日が成長できないと感じる状況に置かれていると、他に行きたい(転職)という思いが出てきてしまいます。
3年が経つと、立場も中堅となり一通り業務をこなせるようになります。すると、自らの「評価」が気になり出します。また、報酬が増えない、定期的に昇給しないことや、自分が本当に役に立っているのかと疑問に思うようになると、やはり辞める理由となります。評価報酬制度が必要になってくる時期です。適切な「評価」と「承認」を行わなければ、疑心暗鬼になって、モチベーションが低下してしまうのです。承認欲求については、院長や事務長のサポートが大変重要になります。
5年以上または年齢が高くなると、「将来への不安」が頭をよぎるようになります。このまま自分はこの場所にいて良いのか、将来はあるのかと思ってしまうのです。
このように入職した年数や経験によるステージによって、モチベーションが何に影響するかは異なるのです。つまり、モチベーションを高めるためのサポートは、スタッフのステージに合わせて細かく対応していく必要があるのです。

面談の重要性

 この「モチベーション」を担保していくための一つの方法は、「面談」です。この面談を定期にやっていくことでしっかりとフォローする体制が整うのです。面談というと、部屋に呼んで、20分、30分面談するだけと思いますが、これでは継続的な仕組みとはなりません。 
継続的なフォローを行うためには、事前に「面談シート」を作成することをお勧めしています。面談シートには、
①どんな仕事、担当をしているのか、業務割合
②業務の発揮レベル(どれくらいできたか)
③満足度調査(満足か不満足か)
④チャレンジしたい業務
⑤クリニックへの提案、
など、面談前に項目を埋めてもらうことで、面談がスムーズに行えるようになるのです。しかも、記録に残し、次回につなげられる仕組みを作り出すことで、スタッフの成長を面談者と相互に確認し合える体制が整うのです。
よく面談をしても同じことを毎回話していたり、あまり盛り上がらず進展しないという話を聞きます。それはなんとなく準備をせずに行っていることが原因なのです。このように事前に面談シートで状況を把握し、話す要点を絞り込んでいくことで、効率的で持続的な面談が可能になるのです。「面談」は相手の能力を把握し、そして悩みを引き出す仕組みづくりなのです。
 どうしても医師は診察室の中に主にいるため、受付のスタッフなどがどんな仕事をしているのか、どんなことを考えているのか、スタッフの目線で理解するのは難しいと思います。面談シートを利用することで、業務を把握し、悩みを引き出すきっかけになるのです。

業務日報

 また、当院では毎日、「業務日報」をつけています。業務日報とは、担当職員が何を感じたか、自院の提案、改善点はあるかを報告するものです。これはメールでも、エクセルでも構わないと思います。当院では、Beeコンパスというツールを利用しています。これを毎日スタッフに書いてもらって、それを院長が読むだけで問題意識や状態が把握できるのです。スタッフは業務日報を書くために、朝から1日中、高いレベルでネタ探しをしているのです。この気付きを日々発見する仕組みづくりが大切なのです。業務日報を見ると、課題発見、提案、そしてアクションプランまでが出ていることが分かります。
この業務日報については、経営者は毎回コメントし(これは口頭でも構いませんが)フォローしていくことで、スタッフの承認欲求を満たし、成長意欲に強くコミットすることができるのです。私はこの業務日報が教育研修ツールとして最も重要な役割を担っていると感じています。

(終わり)

 

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